ヘルパンギーナは、発熱と口腔粘膜にあらわれる水疱性発疹を特徴とし、夏期に流行する小児の急性ウイルス性咽頭炎で、いわゆる夏かぜの代表的疾患です。その大多数はエンテロウイルス属、流行性のものは特にA群コクサッキーウイルスの感染が原因です。
毎年5 月頃より増加し始め、6〜7月にかけてピーク となり、8月に減少、9〜10月にかけてほとんど見られなくなります。国内での流行は例年西から東へと向かい、その流行規模はほぼ毎年同様ですが、和歌山市においては今年度報告数が例年に比べて高く推移しており今後の増加も予想されます。患者の年齢は4歳以下 がほとんどであり、1歳代がもっとも多く、ついで2、3、4、0歳代の順です。
病原体
エンテロウイルスとは、ピコルナウイルス科に属する多数のRNA ウイルスの総称で、ポリオウイルス、A群コクサッキーウイルス(CA)、エコーウイルスなどを含みます。 ヘルパンギーナに関してはCA が主な病因であり、2、3、4、5、6、10型などの血清型が分離されます。
エンテロウイルス属の宿主はヒトだけであり、感染経路は接触感染を含む糞口感染と飛沫感染 であり、急性期にもっともウイルスが排泄され感染力が強いが、エンテロウイルス感染としての性格上、回復後にも2 〜4週間の長期にわたり便からウイルスが検出されます。
臨床症状
2〜4 日の潜伏期を経過し、突然の発熱(38〜40℃)、続いて咽頭の発赤が顕著となり、主として軟口蓋の部位に直径1〜2mm ほどの紅暈で囲まれた小水疱が出現します。浅い潰瘍を形成し、咽頭疼痛を伴ってきます。発熱については2 〜4 日間程度で解熱し、それにやや遅れて粘膜疹も消失します。発熱時に熱性けいれ んを伴うことや、口腔内の疼痛のため不機嫌、拒食、哺乳障害、それによる脱水症などを呈する ことがありますが、ほとんどは予後良好です。
エンテロウイルス感染は多彩な病状を示す疾患であり、ヘルパンギーナの場合にもまれには無 菌性髄膜炎、急性心筋炎などを合併することがあります。前者の場合には発熱以外に頭痛、嘔吐などに注意すべきですが、項部硬直は見られないことも多く、後者に関しては、心不全徴候の出現に十分注意することが必要です。鑑別診断として、単純ヘルペスウイルス1型による歯肉口内炎(口腔病変は歯齦・舌に顕著)、手足口病(ヘルパンギーナの場合よりも口腔内前方に水疱疹が見られ、手や足にも水疱疹がある)、アフタ性口内炎(発熱を伴わず、口腔内所見は舌および頬部粘膜に多い)などがあります。
病原診断
診断には、患者の口腔内拭い液、特に水疱内容を含んだ材料、糞便、髄膜炎を合併した例では髄液などを検査材料としてウイルス分離を行うか、あるいはウイルス抗原を検出します。確定診断にはウイルスを分離することが原則です。 実際には臨床症状による診断で十分なことがほとんどです。
治療・予防
通常は対症療法のみであり、時には脱水に対する治療が必要なこともあり、無菌性髄膜炎や心筋炎の合併例では入院治療が必要です。 特異的な予防法はありませんが、流行時にうがいや手指の消毒を励行すること、感染者との密接な接触を避けることなどです。
感染症法における取り扱い
ヘルパンギーナは定点把握疾患に定められ、市内9カ所の小児科定点医療機関の医師より毎週報告がなされています。
登校登園について
ヘルパンギーナは、主症状から回復した後も、ウイルスは長期にわたって便から排泄されることがあるので、急性期のみの登校、登園停止による学校・幼稚園・保育園などでの厳密な流行阻止効果は期待ができません。本症の大部分は軽症疾患であり、登校登園については手足口病と同様、流行阻止の目的というよりも患者本人の状態によって判断しましょう。